鑑賞した日付:2021年9月1日
漫画・アニメ「へうげもの」  作者:山田芳裕
★★★
総合点:56点/100点

 通常、スポットを当てることのない歴史の中で生まれた文化芸術や価値観をあえて表に持ってきたような斬新な視点で綴られた歴史絵巻。僕はこの漫画をずっと以前に読んでいたが、最近になってアニメ版を確認したので改めてレビューしておこうと思う。


 まず、基本的に某(それがし)はこの作品、なぜかあまり好きでは御座らん。その理由はいくつかあるが、とにかく良い部分と悪い部分が混在している作品だと思っていて、いくつかのシーンは本当に素晴らしいのだがどうにもおかしな部分を看過できないが故。

 それから、今回は主にアニメ版について評価しようと思うが、アニメ版はアニメの出来としてあまり良くないように思った。まずOPの音楽が酷すぎ。誰だこんなバカみたいな音楽を付けたのは…?オールインワンシンセを買ってもらった中学生が初めて作曲した様なクソみたいなオープニング曲。
 それ以外にもアニメの演出的に酷い部分も多々ある。言っていったらキリがないほどに。なのであえてここではそれらをあげつらうことはしない。

 根本的な所で言えば、そもそもあまり絵が好きではない。大げさに描かれた変顔みたいなシーンが沢山出てくるのだが、これが普通に気持ち悪い。それから、そもそも、古田織部というマイナーな小大名を主人公にして、数寄という価値観や陶磁器を題材にしている時点でちょっと題材として弱いかなと。そこがこの物語の斬新な所でもあり、また、そういう文化がその当時斯様に影響力があったのだ!ということを知れるという意味では、非常に芸術性の高い、タメになるアニメ、勉強になる漫画と言うこともできるのだが、やっぱり…ね、エンターテイメント作品として見た時にそれじゃ題材が弱すぎるんだよね…。
 つまり、そんな古田織部や利休が提唱する価値観の話なんかよりも、ありきたりだけれど普通に豊臣秀吉の半生にスポットを当てた方が断然面白いし、普通にその当時の秀吉や信長、家康などの活躍劇が見たい!と思ってしまう。そんな陶芸の話なんてどうでもいいよ…。という風に。「事実は小説よりも奇なり…」などという言葉があるがつまりはそういうこと。普通に秀吉とかの話を脚色なしで描いた方が実は面白い。
 「役不足」という言葉は本当の意味よりも誤用の方が定着しているような昨今だが、その誤用の方の意味で、古田織部ではどうしても「役不足」なのだ。

 とても面白い引き込まれるようなシーンや脚色も多々あるので、決して悪い作品ではないが、アニメの演出、出来としてはかなり悪いと思った。なので興味のある人は漫画で読んだ方が良いのかもしれない。


(たとえば利休の切腹シーンにて、史実では床の間で切腹したので腕が柱にぶつかってうまく切腹できなかった…というような話があるらしいのだが、それを、アニメでは途中まで再現しようと試みているが腕がぶつかる様な描写は無く、突然、利休が「サラカベー!」と訳の分からないことを絶叫して最後の最後で古織を笑わせる…という風になっている。これでは完全に意味不明だろ!と。利休が古織を笑わせるために何か面白い事を言ったのかな…?くらいの認識は出来るが、その「サラカベー!」の何が面白いのかサッパリ分からない…という、最後の最後で余分な疑問点を視聴者に与える結果になっているように思う。あれはおそらく、切腹しようとしたけど腕が柱に当たってうまく切腹できなかったので、柱に八つ当たりをした…という利休の命を懸けたギャグだったのではないか?と推察するが…。ちなみに、史実ではそもそも利休の介錯を古織がしたという記録はないとのこと。)

 良い部分として、全編が武人語というか、侍言葉で徹底されているのが非常に小気味良くて癖になるという点。これは本当に貴重というか、近年は時代劇でもなかなかこういう言葉遣いは聞かれなくなったのでこれは本当に良いと思い候、御座候。。

 戦国時代の中間管理職、もしくは戦国時代のキョロ充の葛藤の話なのだが、千利休が何をしたかったのか?どういう世界を見ていたのか?その美学とは?ということが、分かる様な気になる…?良いお話です。

お世話になり申した。