鑑賞した日付:2019年6月30日
「この世界の片隅に」  作者:こうの史代
★★★★★
総合点:105点/100点

 素晴らしいの一言。ただこの評論は難しい。それを題材にした時点でイイに決まっているというようなところがある。そういう意味ではズルい!。でも、それでも、本当に素晴らしかった。全てが抑制されていて上手に作ってあったと思う。


それに、舞台が「戦時中の日本」なのでその辺りに目が行くが、政治的なことはほとんど出てこないし、これは舞台が戦時中の日本であるというだけで、実際には愛や家族や生活、日常を描いた作品だと思った。少なくとも「戦争モノ」ではない。

 ところで、それが“いつ”の話なのか、話の始まりに必ず「16年6月」という風に出る作品って結構好き。実話的だし分かりやすいし。んで見ている側としては「20年8月」に、ネタバレ宣言するまでもなく(広島で)何が起こるのか分かっているわけだから、そこに至るまでのカウントダウンみたいな緊張感があって良かったかもしれない。

あくまでも普通の人目線での戦争時代の話。

それにしてもこの作品の評論・評価は難しい。これはそのまま、それで良いと思うし。
のん(能年玲奈)の演技も良かったし、絵も良かったと思う。
 予告編を見ると、のんの演技、声に疑問を持つ人も多いと思うけれど、本編を見ればまさに「のん」の声がピッタリ合っていて凄く良かった。上手くはないのかもしれないけど、これはむしろ上手いプロの声優さんでは絶対に出せない“下手さ”が、素朴さや普通の人目線を出していて、内容と非常に合っていて素晴らしく良かった。偶然のベストマッチみたいなものなのだろう。動画のコメント欄にもあったけれど、この「のん」は本当に運がある人だなと思った。強運なんてもんじゃないトンデモナイ運を持っている人だ。


ちょっと評論としてはズレるかもしれないけど、
現代人から見れば「可愛らしいお婆ちゃんの昔話。」といったところなのだろうか。
その昔話が壮絶なのだけれど、そのお婆ちゃんの語り口がのほほんとしているというか、そういう人だったというような。そんな感覚を鑑賞後に持った。

それと、この作品でも少し、「愛する人(家族)と一緒に居る」ということの尊さのようなものも感じた。

:ちょっとネタバレ:
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特にラストの戦災孤児の子がウジが湧いている母親と居るシーンなどに特に感じた。
この戦災孤児の子はその後に母親から自主的に離れて一人で放浪するが、本当はそれでも離れたくなかっただろう思いを推し量ることができる…。

あと、カズオ・イシグロの作品にも通ずる「立場・状況」への「従順」などについても考えた。
現代人は兎角、与えられる条件に対する不平不満や幸・不幸を語り考えがちだが、この物語に出てくる人達は(誰もがそういう状況だからというのもあるが)あまり状況や条件に対する不平不満を言わない。
例えば、子供の頃に親が原爆で死んで戦災孤児になったからと言って、その後もずっと不幸が続くわけでは無い。確かにそれは、人生のスタート時の状況、条件的には最悪だが、それ以降、何をどう感じ、どう生きるかは自由だ。

 原子爆弾が投下される寸前に、小姑がすずさんに謝るシーンがあるが、確かに、小姑と比べればすずさんは酷い条件・状況にもかかわらず幸せに生きようとしていた。
つまり、立場や状況、与えられる条件と、幸・不幸は実はあまり関係ないということだ。
それなのに現代人は、ちょっとした不利をイコールで「不幸」と嘆いていやしないか?とか、つまり、「不利」と「不幸」は別問題だ!とか、そんなことも考えてしまった。


 誰かが評していた話で、『かつて「となりのトトロ」と「火垂るの墓」は同時上映だったが、この映画はその二つを合わせてさらにプラスアルファでいろんな良さがある映画』と言っていたが正にそんな感じ。

評論が難しいというよりも、言うことなしだ。この作品を論じるのは無粋というものだ。
ああだこうだと論ずるよりも、誰しもが一度見て感じれば良い作品。
とにかくどの人も一度見てみれば良い。

んで、「君の名は。」のところでも書いたけれど、
これがジブリ作品ではない!という時点で、もう本当にジブリは終わってるな、負けてるなと思った。本来、ジブリが作らなければならなかった映画だろ!と。

 まあ、映画も良かったけど原作漫画が良いんだろうなという風にも思った。上述の通り、映画も上手に作ってあって映画も良かったけど。

あと、ちょっと関係ないことを言わせて貰えば、また、偏見や誤解が生じることも覚悟で言わせて貰えば…、
すずさんみたいな人は典型的な発達障害の人だと思う。
この映画の随所に、すずさんが(現在で言う所の)発達障害である証拠とも言うべき典型的な言動がある。
(絵が上手い事や、身の危険を忘れて綺麗な弾幕・爆弾に見入ってしまったりとか、大人なのに迷子になったり、人の顔をすぐ忘れてしまったり、全体的におっちょこちょいなところとか)
マンガ家の水木しげるもそうだが、四肢のいずれかに重大なケガを負うのも、注意欠陥障害系の何かが関係していると思う。